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仮面城(日文版)-第3部分
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見ると老人の手のひらには、金色の小箱がのっている。
「おじさん、これはなんですか?」
「なんでもいい。おかあさんにあげるおみやげだ。もし、きみのおとうさんやおかあさんがお困りになるようなことがあったら、この箱をあけてみたまえ。なにかと役に立つだろう」
老人はそういうと、むりやりに黄金の小箱を、文彦のポケットに押しこみ、
「さあ、早くお帰り、そして、もう二度とここへくるんじゃありませんぞ。そのうちに、きっとわしのほうからたずねていく……」
老人はそういって、押しだすように玄関から、文彦をおくりだすと、バタンとドアをしめてしまった。
文彦はいよいよキツネにつままれた気持ちである。それと同時になんともいえない気味悪さをおぼえた。文彦はワッと叫んでかけだしたいのを一生けんめいこらえて、その家の門を出ると、足を早めて、さっきのやぶかげの小川のほとりまできたが、そのときうしろから、だれやらかけつけてくる足音……。
三つの約束
文彦はギョッとして立ちどまったが、追ってきたのはべつにあやしい者ではなく、大野老人のお嬢さんの香代子だった。
「文彦さん」
香代子はほおをまっかにして、ハ烯‘息をはずませながら近づいてくると、
「あなたずいぶん足が早いのね。あたし一生けんめいに走ってきたのよ」
「はあ、なにかぼくにご用ですか?」
「ええ、うっかりして、その箱のあけかたを、教えるのを忘れたから、それをいってこいとおとうさまにいいつけられて……」
「ああ、そうですか」
文彦はなにげなく、ポケットから黄金の小箱をとりだそうとすると、
「シッ、だしちゃだめ!」
香代子はすばやくあたりを見まわして、
「文彦さん、あなたお約束をしてちょうだい。三つのお約束をしてちょうだい」
「三つの約束って……?」
「まず第一に、おうちへ帰るまで、ぜったいにその箱を、だしてながめたりしないこと。第二に、ほんとに困ったときとか、いよいよのときでないとその箱をあけないこと。第三に、なかからなにが出てきても、けっしてひとにしゃべらないこと。……わかって?」
「わかりました」
「このお約束、守ってくださる?」
「守れると思います。いや、きっと守ります」
「そう、それじゃ指切りしましょう」
にっこり笑って、香代子はゲンマンをしたが、すぐまた、さびしそうな顔をして、
「文彦さん、あなたにお目にかかれて、こんなうれしいことはないわ。でも……またすぐにお別れしなければならないんじゃないかと思うのよ」
「どうしてですか?」
文彦はびっくりして聞きかえした。
「ダイヤのキングよ。ダイヤのキングがスギの幹に、くぎざしになっていたでしょう。ダイヤのキングが、あたしたちの身のまわりにあらわれると、いつもあたしたちは逃げるように、お引っ越しをするの。
いままでに五ヘンも、そんなことがあったわ。こんどは二年ばかりそんなことがなかったので、やっとおちつけるかと思ったのに……」
「香代子さん、それじゃだれかが、きみたちの家をねらっているというの?」
そのとき、フッと文彦の頭にうかんだのは、あの気味の悪い老婆だった。それからもう一つ、あの客間にあるよろいのこと。
「アッそうだ。香代子さん、きみんちの客間にあるよろいね。あのなかにはだれかひとがはいっているの?」
「な、な、なんですって?」
香代子はびっくりして目をまるくした。
「文彦さん、そ、それ、なんのこと? よろいのなかにひとがいるって?」
「いや、いや、ひょっとすると、これはぼくの思いちがいかも知れないんだ。しかし、ぼくにはどうしても、あのよろいのなかにひとがいるような気がしてならなかったんだ。息づかいの音がするような気がしてならなかったんだ。
それをおじさんにいおうとしたんだが、おじさんがむりやりに、ぼくを外へ押しだすものだから……」
大きく見張った香代子の目には、みるみる恐怖の色がいっぱいひろがってきた。しばらく香代子は、石になったように立ちすくんでいたが、とつぜん、口のうちでなにやら叫ぶとクルリとむきなおって、
「さようなら、文彦さん、あたし、こうしちゃいられないわ。いいえ、あなたはきちゃだめ。あなたは早くおうちへ帰って……。
箱をあけるのは、8.1.3よ」
香代子はまるで猛獣におそわれたウサギのように、やぶかげの小道を走り去っていった。
文彦はいよいよますます、キツネにつままれたような気持ちがした。考えてみると、きょう一日のできごとが、まるで夢のようにしか思えないのだ。
文彦はよっぽど香代子のあとを追って、もう一度あの家へひきかえしてみようかと思ったが、気がつくと、あたりはすでにほの暗くなっていた。
いまからひきかえしたりしたら、すっかり日が暮れてしまうことだろう。
それにきちゃいけないという香代子のことばもあるので、やめてそのままうちへ帰ってきたが、
「ただいま」
と、|格《こう》|子《し》をあけるなり、奥からころがるように出てきたのはおかあさんだった。
「ああ、文彦よく帰ってきたわね。おかあさんは心配で心配で……それに、|金《きん》|田《だ》|一《いち》先生も、けさのテレビを見て、ふしぎに思ってきてくだすったのよ。あまりおそいから、いま迎えにいっていただこうと思っていたところなの」
そういうおかあさんのうしろから、
「や、やあ、ふ、文彦くん、お、お帰り」
と、顔をだしたのは、たいへん風変わりな人物だった。よれよれの着物によれよれのはかま、それにいつ床屋へいったかわからぬくらい、髪をもじゃもじゃにして、少しどもるくせのある、小柄でひんそうなひとなのだ。
そのひとはにこにこしながら奥から出てきたが、ひと目文彦の顔を見ると、
「や、や、どうしたんだ、文彦くん? き、きみはまるで、ゆ、ゆうれいでも見たような、顔をしているじゃないか」
ああ、それにしてもこの金田一先生というのは、いったい何者なのだろうか。
ひょっとすると諸君のなかには、もうこの名を知っているひとがあるかもしれないが……。
名探偵、|金《きん》|田《だ》|一《いち》|耕《こう》|助《すけ》
金田一耕助。――と、いう珍しい名まえは、そうざらにあるものではない。だから諸君のなかにもその名を聞いて、ハハアと思いあたるかたもあることだろう。
名探偵、金田一耕助! そうだ。そのとおりなのだ。みなりこそ貧弱だが、顔つきこそひんそうではあるが、金田一耕助といえば、日本でも一、二といわれる名探偵。その腕のさえ、頭のよさ、いかなる怪事件、難事件でも、もののみごとに、ズバリと解決していく推理力のすばらしさ。
その金田一耕助は、むかしから文彦のおとうさんとは、兄弟のように親しくしている仲だったが、きょう、はからずもテレビのたずねびとの時間に、文彦の名を聞いて、ふしぎに思ってたずねてきたのだった。
「文彦くん、どうしたんだね。それできみは、大野健蔵というひとのところへいってきたのかね」
「はい、いってきました。でも、先生、それがとてもみょうなんです」
「みょうというのは……?」
そこで文彦は問われるままに、きょう一日のふしぎなできごとを、くわしく話して聞かせた。途中で出会った気味の悪い老婆のこと、大野老人のけがのこと、ダイヤがたのあざ[#「あざ」に傍点]を眨伽椁欷郡长取ⅴ昆ぅ浃违螗挨韦长取ⅳ饯欷椁蓼课餮螭韦瑜恧い韦胜恕ⅳ坤欷欷皮い毪瑜Δ蕷荬筏皮胜椁胜盲郡长趣胜嗓颉ⅳ猡欷胜挙筏郡ⅳ郡馈ⅴ荪饱氓趣韦胜摔ⅳ搿⒒平黏涡∠浃韦长趣坤堡稀ⅳ嗓Δ筏皮庠挙工长趣扦胜盲俊¥饯欷趣いΔ韦愦婴趣韦郡ぜs束があるからなのだ。
金田一耕助は話を聞いて、びっくりして目を丸くしていたが、それにもましておどろいたのはおかあさんである。おかあさんはまっ青になって、
「まあ、そ、それじゃ文彦、そのひとはおまえの左腕にある、あのあざ[#「あざ」に傍点]を眨伽郡趣いΔ巍
「そうです。おかあさん。そして、これがあるからには、まちがいないといいましたよ」
「まあ!」
おかあさんの顔色は、いよいよ血の気を失った。金田一耕助はふしぎそうにその顔を見守りながら、
「おくさん、なにかお心当たりがありますか?」
「いえ、あの……そういうわけではありませんが、あまり変な話ですから……」
おかあさんの声はふるえている。おかあさんはなにか知っているらしいのだ。なにか心当たりがあるらしいのだ。それにもかかわらずおかあさんは、文彦や金田一探偵が、なんどたずねても話そうとはしなかったのだった。
金田一探偵はあきらめたように、もじゃもじゃ頭をかきまわしながら、
「なるほど、するとその老人は、文彦くんの左腕にある、ダイヤがたのあざ[#「あざ」に傍点]を眨伽俊¥趣长恧饯欷殚gもなく、だれかがダイヤのキングをスギの木に、くぎづけにしていったのをみると、ひどくびっくりしたというんだね」
「ええ、そうです、そうです。それこそ気絶しそうな顔色でしたよ」
「そして、客間のよろいのなかに、だれかがかくれていたと……」
金田一耕助はまじろぎもしないで考えこんでいたが、
「とにかく、それは捨ててはおけません。おくさん、ぼくはこれからちょっといってきます」
「え? これからおいでになるんですって?」
「先生がいくなら、ぼくもいきます」
「まあ、文彦」
「いいえ、おかあさん、だいじょうぶです。こんどは先生がごいっしょですもの。それにぼく、いろいろ気になることがあるんです。先生、ちょっと待っててください。ぼく、大急ぎでごはんを食べますから」
それから間もなく文彦は、金田一探偵といっしょに、ふたたび家を出たが、ああ、そのとき文彦がもう少し、気をつけてあたりを見まわしていたら!
文彦と金田一探偵が、急いで出ていくうしろすがたを見送って、やみのなかからヌ盲瘸訾皮郡韦稀ⅳⅳⅰⅳ胜螭趣ⅳ文Хㄊ工い韦瑜Δ恕菸钉螑櫎い肖ⅳ丹螭扦悉胜い¥肖ⅳ丹螭悉栅郡辘韦工郡姢à胜胜毪韦虼盲啤ⅴ衰骏辘葰菸稅櫎ばΔい颏猡椁工取ⅴ偿去偿趣趣膜à颏膜い啤⑽难澶渭窑韦郅Δ亟扭い皮い盲俊
そこにはかぜをひいたおかあさんが、たったひとりで|留《る》|守《す》ばんをしているはずなのだ。
よろいは步く
さて、そういうこととは夢にも知らぬ文彦と金田一探偵は、電車にのって大急ぎで成城までかけつけたが、そのあいだ金田一探偵は、一言も口をきこうとはしなかった。
考えぶかい目のいろで、ただ、前方を見つめたきり、しきりに髪の毛をかきむしっている。そういうようすを見るにつけ、文彦にもしだいに事の重大さが、ハッキリとのみこめてきた。この名探偵は、なにかに気がついているらしいのだ。ハッキリしたことはわからなくとも、なにかしらぶきみな予感に胸をふるわせているのだ。
それはさておき、文彦と金田一探偵が、成城についたのは、夜の八時ごろのことだった。
幸い今夜はおぼろ月夜、成城の町を出はずれると、武蔵野の林の上に満月に近い丸い月が、おぼろにかすんでかかっている。あたりには人影一つ見あたらない。
ふたりは間もなくきょう昼間、ぶきみな老婆が手をあらっていた、あのやぶかげの小道にさしかかったが、そのときだった。金田一耕助がとつぜん、ギョッとしたように立ちどまったのである。
「先生、ど、どうかしましたか?」
「シッ、だまって! あの音はなんだろう」
金田一耕助のことばに、文彦もギョッと耳をすましたが、するとそのとき聞こえてきたのは、なんともいえぬ異様な物音だった。
チャリン、チャリンと金属のすれあうような音、それにまじってガサガサと、雑草をかきわけるような物音が、林の奥から聞こえてくる。たしかにだれかが、林のなかを步いているのだ。しかし、あのチャリン、チャリンという物音はなんだろう。
金田一探偵と文彦は、すばやくかたわらの木立に身をかくすと、ひとみをこらして音のするほうを見ていたが、やがてアッという叫び声が、ふたりの口をついて出た。それもむりはなかった。ああ、なんということだろう。こずえにもれる月光を、全身にあびながら、林のなかを步いているのは、たしかにきょう文彦が、あの洋館の客間で見た、西洋のよろいではないか。
西洋のよろいはフラフラと、まるで|夢撸Р≌摺钉啶妞Δ婴绀Δ筏恪筏韦瑜Δ恕⒘证韦胜虿饯い皮い¥饯筏啤ⅳ饯我蛔悚搐趣恕ⅴ隶悭辚蟆ⅴ隶悭辚螭取⒔鹗簸韦栅欷ⅳσ簸工毪韦馈H恧洗氦卧鹿猡颏ⅳ婴瓢足y色にかがやき、そのうえに、木々のこずえのかげが、あやしいしま[#「しま」に傍点]もようをおどらせている。
あまりのことに、さすがの金田一探偵も、しばらくぼうぜんとしてこのありさまをながめていたが、やがてハッと気をとりなおすと、バラバラと林のなかにとびこんだ。
と、その物音に西洋のよろいは、ハッとこちらをふりかえったが、つぎの瞬間、
「キャ茫
それこそ、まるできぬをさくような悲鳴をあげると、クルリとむきをかえて、林の奥へ逃げだした。
「待て!」
金田一耕助ははかまのすそをさばいて、そのあとを追っかけていった。相手はなにしろ重いよろいを着ているのだから、すぐにも追いつきそうなものだが、それがそうはいかなかったのは、金田一探偵の服装のせいだった。
林のなかには雑草が一面にはえている。またあちこちに切り株があったり、背の低いカン木がしげっている。それらのものがはかまのすそにひっかかるので、なかなか思うように走れないのだ。
「先生、しっかりしてください。だいじょうぶですか」
「ちくしょう、このいまいましいはかま[#「はかま」に傍点]め!」
いまさら、そんなことをいってもはじまらない。
こうしてしばらく林のなかで、奇妙な鬼ごっこをしていたが、そのうちに、さすがの金田一耕助も、思わずアッと棒立ちになってしまうようなことが起こった。
たったいままで林のなかを、あちらこちらと逃げまわっていたあのよろいが、とつぜん、ふたりの目のまえから、消えてしまったのである。そうなのだ。それこそ草のなかに、のみこまれたように、あとかたもなく消えうせてしまったのだった。
秘密の抜け穴
「せ、先生、ど、どうしたんでしょう。あいつはどこへいっちまったんでしょう?」
「ふむ」
金田一探偵も文彦も、まるでキツネにつままれたような顔色である。
ああ、じぶんたちは夢を見ていたのであろうか。春の夜の、おぼろの月光にだまされて、ありもしないまぼろしを追っていたのだろうか。……文彦は林のなかを見まわしながら、ブルルッとからだをふるわせたが、そのとき金田一探偵が、
「とにかく、いってみよう。人間が煙みたいに消えてしまうはずはないからね」
雑草をかきわけて、さっきよろいが消えたところまで近づいていったが、すると、すぐに怪物の、消えたわけがわかった。そこには古井戸のような、ふかい穴があいているのだ。
「あ、先生、ここへ落ちたん
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