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好き≠恋(日文版)-第19部分

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「……ごめん」
 歩の指が、健人の唇に触れる。そこでようやく思考が現実に戻ってきた健人は、触れられた衝撃で体を引かせてしまった。嫌だったわけではない。けれども、今の行動は、歩を拒んでいるように見えた。
「嫌、だよね。男にキスされるなんか。……ごめん、忘れて」
 勢いよく引いた腕を、健人は掴んだ。酷く傷ついた顔をしている歩を見て、悪いことをしてしまったと後悔した。嫌だと思ったわけではない。それだけは伝えたかった。
「摺Α!@いただけだ」
「ほんとに? 気、遣わなくていいんだよ。気持ち悪いなら、気持ち悪いでいいから」
「お前に気なんか遣ってない!」
 あまりにも気遣ってくる歩に嫌気が差してしまい、健人は怒鳴るように否定した。その後で、大声を出してまで否定することではなかったと、唇を押さえて俯いた。何事もヒステリックに叫べば、問睿鉀Qするわけではない。いらいらして、怒鳴る癖がいつの間にかついてしまっていた。
 沈黙が訪れて、秒針の音が部屋に響いている。なんだか、恥ずかしいことを言ってしまったのではないかと思い、健人は顔を上げることが出来なかった。
「俺の話、聞いてくれる?」
 縋るような声が聞こえて、健人は顔を上げた。今まで見たことも無いぐらい、悲しそうな顔をしている。怒鳴ってしまったことで、歩がこんな顔をしているのかと思って、後悔した。一回、首を縦に振ると、歩は「ソファ俗恧Δ工妊预盲平∪摔伪持肖蜓氦筏俊
 どんな話をするのか、見当もつかなかった。これが大事な話と言うのは分かっていて、それを受け止めれるかどうか、健人は不安だった。
「家族の話、なんだけどね」
 ポツリと呟くような、とても小さい声だった。歩が自分から過去の話をするなんて、滅多にないことだ。以前、ジンが尋ねないと聞かないと言っていたのを思い出して、健人は前を見つめている歩の横顔を見つめた。前を見ているだけで、その目には何が写っているのかは分からない。でも、無表情にならなければいけないほど、話すのに覚悟がいることは分かった。
「俺には、兄ちゃんがいるんだ。あんまり、父さんとか景子さんの前では、話すことが出来ないんだけどさ……。父さん、気にするし。兄ちゃんとは5歳離れてるんだけど、ケンカとかあんまりしたことなくて、結構、仲良かったんだ。父さんと母さんが離婚するって聞いたとき、何が嫌だったかって言ったら、俺は兄ちゃんと離れるのが嫌だった。でも、二人の関係がすでに壊れてるのは分かってたから、そんなこと言えなかった。母さんと離れるのは、はっきり言って嬉しかったしね」
 自嘲気味に笑う歩を見つめて、健人は何も言わなかった。健人が話しているとき、歩は黙っていてくれたのだから、健人も黙って聞こうと拳を握った。
「母さんが作る料理の味って、俺、分かんないんだ」
「……え」
「家の中で、俺は居ない存在。父さんと兄ちゃんは相手してくれるけど、母さんは俺になんか興味が無くて、何をしていようと何も言わないし、見ることも無かった。最初は、構ってほしいから悪戯とか良い事もいっぱいしてきたけど、何も言ってくれない。見ることすらしない。常に、兄ちゃんのことばっかり気にするんだ。あぁ、そう言えば、兄ちゃんが受験のときに、俺が兄ちゃんの部屋に行ったら、物凄く怒ったかな。受験の邪魔をするなって、叫ばれて、怒鳴られて、殴られた。俺、ただ、兄ちゃんにお茶を持っていこうとしただけなのに……。兄ちゃんが、かなり高いレベルの学校行くの知ってたから、頑張ってって言いたかっただけなんだ。それすらさせてもらえないことに、腹が立つを通り越して呆れたよ。せめてもの反抗で、笑ってやった。怒鳴ってる最中も、殴ってる最中も、思いっきり笑ってやったら気持ち悪いって言われたんだ。こっちからしたらさ、何も悪いことしてないのに、勝手に俺のこと嫌って、相手にもしないのに、兄ちゃんのところへ行ったら怒るんだ。自分勝手も良い所だろ? きっと、あの人の中で子供は兄ちゃんだけだったんだろうな。何で、俺を産んだのかも分からないし、本当の子供なのかと疑ったこともあった。けど、俺はあの人と父さんの子供なんだよ。兄ちゃんもそう。……可笑しいだろ? 兄ちゃんと同じなのに、俺だけ嫌われてんの。最初、健人が俺に対して冷たい態度取ったとき、母さんとダブったんだ。だから、健人のことはそんなに好きじゃなかった。母さんへの復讐を、俺は健人にしてたんだと思う」
 健人は黙って、歩を見つめた。この1年半、してきたことは謝っても取り消せるわけでもないし、歩の心の傷をえぐってしまっていたとしても、それは消せない事実として残る。本当に謝っても済まされないことをしてきたのだ。健人は謝罪の言葉を噛み砕き、それを必死に飲み込んだ。幸せだと決め付けていた歩の家庭に、そんなことがあったとは、思いもしていなかった。
「俺、マジで人に優しくするのって苦手なんだよね。優しくしてるフリなんだ。ある程度はさ、どう言えば相手が喜ぶか分かってるから、喜ぶような言葉を言ってる。一人の奴がいたら、声をかけて、仲間に入れてやったり。そんなのって、全部、偽善だったんだよね。ジンはそれに気付いて、俺にすげ欷皮郡巍¥挨稀⒑螛敜胜螭坤瑜盲啤灓筏筏皮ⅳ菠皮毪韦瑐イい螭袱悚胜い盲婆Qられちゃってさ。まぁ、でも、何でそんなことをジンに言われなきゃいけないのかわかんなくて、俺もキレ返したんだけど。あれって、図星を突かれてたから、キレたんだろうな。今だから、そう思う。だからね、健人にはわざと、優しくしてた。俺が笑えば笑うほど、健人って凄く嫌そうな顔をしたから、それも母さんとちょっと似てて、面白くなっちゃったんだ。いつも嫌そうにしてて、俺には興味ないくせに、俺が笑うと嫌そうな顔をする。なんか、復讐できなかったことが出来て、楽しかったのかもしれない。ごめんね、健人。嫌な思いしてるのは分かってたんだけど、やめれなかった」
 健人に目を向けて、辛そうに笑う歩を見て、健人は「無理して、笑うな」と窘める。歩が無理をして笑っているのは、すぐに分かるようになった。苦しそうな笑顔を見ているだけで、健人の方が辛くなった。
「俺も、お前に嫌われるようなことをしていたんだ。お互い様だろ」
「……そう、かな?」
 迹盲筏瑜Δ趣筏胜iに、健人は「そうなんだよ」と言いきって、目を見つめた。健人は歩を嫌うことで、家族と言うの物を拒んでいた。歩は健人を嫌うことで、母親に対する復讐をしていた。それは、互いに相手を目の前にしながら、別の幻影を見ていたのだ。健人が歩を嫌った理由も、歩が健人を嫌った理由も、二人はその人自身を嫌いになったわけではなかった。最初から、もっと普通に出会えていれば変わっていたのだろうが、出会いが出会いだっただけにそれに気付くことなく、時の流れとともに矛盾が生じて崩れてしまったのだ。
 崩れてしまったものは、やり直せばいい。歩がそう望むなら、健人もそのつもりで居た。
「健人と言い合ったとき、もういいやって思ったんだ。思う存分、からかったし、撸Г螭坤贰荬绀欷郡盲蒲预盲郡榻Y構気が晴れてたから。もういいやって思って、健人とは関わらないでいようと思ったんだ。健人もその方が良いって言ってたし。そっから、よくよく考えてみると、俺って嫌いな奴にあんなことしちゃうほど、ガキだったんだな盲扑激盲俊¥浃盲绚辍⑷摔坤椁怠⒄lかを嫌いになることなんていっぱいあるし、今までも嫌いな奴って沢山いた。けど、健人はちょっとだけ摺盲郡螭坤瑜汀
「……摺盲浚俊
「そう。関わらないって決めたら、俺は絶対に関わらないんだけど、健人のことを気にしてる俺が居たんだ。清々としてる顔を見て、ちょっとムカついたり。酷いことをしてたのに、どうして健人は普通の顔をしていられるんだろうって疑問に思ってた。そんなとき、ちょっとだけ母さんを思い出してたけど、すぐに消えちゃうんだよね。不思議と」
 歩の話に耳を傾けながら、健人は疑問に思った。健人のことを好きだと言ったが、それは母親を重ねているだけなのではないかと。それはそれで、また悲しい結果が見えそうで、怖くなる。今でも歩は、自分自身を見ていないのではないかと不安になった。不安げに見上げる健人を見て、歩は少し笑った。
「健人は母さんに似てたけど、今は摺ΑH弧⑺皮皮胜盲俊K皮皮胜い韦恕ⅳ嗓Δ筏浦丐亭皮撙皮郡证椁胜ぁ
「……ほんとかよ」
「ほんとだよ。少なくとも、あの雨の日に、震えている健人を見た時は、健人のことしか考えられなかった。そっからずっと、俺は健人のことだけ、考えた。俺もさ、そう良い人生を送ってきたわけじゃないけど、健人はもっと辛い思いをしてるんだろうなって思ったんだ。その辛さを、少しでも分かってあげたいって思った。俺がいることで、健人の辛さをやわらげてあげることができるなら、そうしたいって思うようになったんだ」
 そう言ってくれるのはとてもうれしかったが、それすらも重ねてみているのではないかと、健人は疑心暗鬼になっていた。歩の母親がどんな人なのかは分からないが、父親が居なくなることよりも、母親に嫌われる事の方が辛いと思う。そんな辛い人生を歩みながらも、平然としている歩が可哀想だと、思った。
「健人と言い合ったときに、母さんを重ねるのはやめたよ。どんなことを言おうと、母さんは俺と言い合ったりなんかしなかったから。俺とは絶対に目を合わさないし、何も言わない。本当に、母さんの前で俺は、透明人間だったから。でも、健人は俺と会話をしてくれるし、目も合わせてくれる。いつの間にか、俺は本音なんか人にぶつけなくなったけど、健人だけにはちゃんと本音は言ってた」
 歩はクスッと笑ってから、健人の髪の毛を撫でる。その手はとても優しくて、逆に悲しくなった。
「親友だと思ってるジンにも、俺は本音を言わない。でも、健人にはこうして言える。家のことを話したのは、健人が初めてだよ」
 こんなに苦しい過去を誰にも言わず、椋Г皋zめていた歩を見ていると、健人が苦しくなった。歩はそれを苦しいことだと分かっていないのだろう。分かっていないから、こうして笑えるのだ。これほど悲しいことは無く、悲痛な笑みに見えた。
 健人は歩に手を伸ばし、少し大きい背中に手を回した。抱きしめるつもりが、抱きついたようになってしまい、ゆっくりと背中を撫でられた。
「どうしたの、健人。ダイタンだね」
「……うるさい。お前、ちょっと黙って俺に抱きしめられてろ」
「俺達、可哀想だね」
 健人にしか聞こえない、小さい声だった。歩は顔を健人の肩口に埋めて、ゆっくりと息を吐きだした。自分より小さい体なのに、力強く抱きしめられると支えられているようだった。可哀想と言う言葉は嫌いだったけれど、それを二人で分かち合えるなら、それでも良かった。
「……俺達は、可哀想なんかじゃない」
「え……?」
「もう、可哀想じゃない。可哀想なのは俺達の過去だ。俺だって、自分の気持ちを誰かに喋ったことは無い。お前だけだ。俺はこれからも、誰かに喋るつもりもないし、可哀想なんて言わせない。可哀想だった過去は、今日でもう終わりにすればいいじゃねぇか」
 ひと際強く、背中を抱きしめられて、歩は笑った。全てを吐きだしてすっきりしたのと、可哀想だった過去とはもう決別するときが来たからだ。まさか、健人に救われるなんて思っても居なかった。それは健人も一緒で、歩に救われるなんて考えても無かった。二人は少し、抱きしめあったまま、笑っていた。
「過去は消せないけど、塗りつぶすことはできるからね。これから、塗りつぶして行けばいいよね」
「……そうだな」
「難しいことだけど、健人となら、何でか知らないけど出来る気がするや」
 歩は健人を引きはがして、顔を覗きこんだ。まっすぐ歩を見つめている健人の目を見て、笑みを向ける。大嫌いだったこのまっすぐな目も、今は嫌いではない。嫌いや好きと言う感情は、曖昧で変化しやすい。けれども、今は、自信を持って言える。
「好きだよ、健人のこと」
 三度目の好きは、恋だった。
 好きと言う言葉は魔法みたいで、ウソのようにも聞こえた。唇が触れそうになる寸前で、健人は歩の体を押した。忘れられないあの光景が、頭の中によぎった。
「……お前さ、彼女、いんだろ。だから、こんなことすんな」
 唇が震えて、上手く言葉が出せなかった。それを聞いた歩はきょとんとした顔で健人を見つめてから、どうしてと首を傾げた。彼女がいるなんて話は、一切したこと無いし、好きだと言ったのにどうして彼女が出てくるのか分からなかった。
「だって、この前、公園で……」
 公園でと言われて、歩は「……あぁ」と頷いた。まさか、あの時のことを、健人に見られているとは思わず、つい、苦笑してしまった。話があると女の子から呼び出され、ジンと撸Г智挨藴gませてしまおうと思って公園で話を聞いた。告白されるんだろうなと思っていたが、まさにそのとおりだった。
「あれ、別に彼女じゃないよ」
「だ、だって、お前! き、キスして……」
「ないよ。されそうにはなったけど」
 はっきりと否定されて、健人はその情景を思い出した。二人の距離が縮まって、顔と顔が触れそうになったところで目を逸らしたのだ。そのまま、逃げるように家へと戻り、ジンから電話がかかってきた。ちゃんと考えれば、キスした事実は見ていない。それが急に恥ずかしくなり、健人は歩むから離れてソファ斡绀盲长丐纫苿婴筏俊
「俺は、健人が好きだから、誰かとキスしたりなんてしないよ」
 まっすぐ健人を見つめている目は、ウソなど無い。それが伝わってきて、健人は目を逸らしてしまった。嫌われていると思っていて、彼女が居ると思い込んでいて、優しくしてくれているのは同情だと決め付けて、この感情は好きだけれど恋ではない、報われないと諦めていた。しかし、実際、歩は健人のことを好きだと言っている。嬉しいのか、それとも困っているのか分からない。ドキドキと、心臓が高鳴っているのは確かだった。
「……健人」
 歩の手が伸びてきて、健人の腕を掴む。
「俺のこと、好き?」
 ここでうんと答えれば、歩はどんな表情をするだろうか。そんなことを考えながらも、たった二文字は言えずに居た。口の中に溜まった唾液を飲み込んで、歩を見つめる。
「き……、らいじゃ、ない……」
 苦し紛れに答えた健人を見て、歩は掴んでいる腕を引っ張った。「うん」なんて簡単に言えるのに、答えれたのは「嫌いじゃない」となんとも曖昧な返事だった。それでも気持ちは歩に通じたようで、強く体を抱きしめられる。それは雨の日に抱きしめられたときと同じようで、高鳴っていた心臓も落ち着きを取り戻している。健人はゆっくりと息を吐き出して、歩の胸に顔を埋めた。
「健人はいつも、一人って言う顔をしてた。俺はもちろんだったけど、父さんや景子さんにも頼らないで一人で何でもかんでもやってた。最初は、ただ、意地を張ってるだけだって思ってたんだ
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