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椁工靶袆婴筏皮筏蓼�歩に、呆れを通り越して笑ってしまった。断っても無駄だと分かっているのに、断ろうとする理由が頭の中に過ぎり、言っても無駄だからと自分に言い聞かせて断る理由を頭から消した。麻婆豆腐とス�‘プ、春雨サラダをテ�‘ブルへ撙螭坤趣长恧菤iが2階から降りてきた。
「今回はちょっとグロいかもしれないな�‘。脳みそ食べるシ�‘ンがあるらしいし」
「……ふ�‘ん」
「ご飯食べて、風呂に入ったら観ようか。観たことないから、面白いかどうか分からないけど」
　DVDケ�‘スをひらひらと振って、歩はソファ�‘の前にあるテ�‘ブルの上にケ�‘スを置いた。それを横目で見ながら、健人は席について箸を手に取って食事を始めた。
　午前3時に夕飯を食べるなんて思っても居なかった。寝起きのせいか、麻婆豆腐を食べているだけで胃もたれしそうになり、健人の箸はあまり進まない。その隣で歩はバクバクと豪快に食事をしている。
「ん�‘、美味いねぇ。こりゃ�‘、景子さんが怒るのも迹�得かな」
「なんで」
「自分より息子のが料理上手かったら、嫌でしょう。ふつ�‘」
「……母さんは、今まで料理なんてあまりしてこなかったから仕方ないだろ。その割には俺の言うこと利かないし。料理できない人が、自分流にアレンジするから失敗するんだよ……」
　愚痴る様に言うと、歩の笑い声が聞こえて健人は歩に目を向けた。どこがおもしろかったのか分からないが、歩は楽しそうに笑って健人を見ている。
「なんか健人のほうが大変そうだね。苦労してるって感じがする。二人で一緒にご飯作ってるの見てたりしてるから、仲良く作ってるのかと思ってた」
「……仲良くなんて作って無い。母さんは俺に何もやらせたくないみたいだし」
　不貞腐れるつもりなど無かったが、思い出すだけで母は健人に作らせようとしないのを思い出して、不貞腐れたようになってしまった。料理をすることは嫌いではないから、できるならしたかったのだが母がそれを許さなかったのだ。
「まぁ、あれじゃん？　今まで出来なかったから健人にはもっと自分のことして欲しいんでしょ。前にそう言ってたよ」
「……へぇ」
　17年間一緒に居た健人よりも、歩の方が母のことを分かっていて眩�雑な気持ちになった。嫌いだと言う感情が、込み上がってきて健人は歩から目を逸らす。
「まぁさ、健人がやりたいようにやるのが一番だと思うけどね、俺は。親の心、子知らずって言うけど、子供の気持ちだって親は分からないんだから」
　歩自身、言ったことや両親のことをフォロ�‘するつもりなど無かったようだが、その言葉で少しだけ歩も再婚したことを根に持っているようで健人は親近感を覚えた。二人にとって、両親の再婚は喜びきれないのが現状だった。
「さ、さっさと食べて、DVD観ようよ。結構、楽しみにしてるんだ」
「……うん」
　いつも通りの笑みを浮かべている歩を見て、健人は箸を握りなおした。今まで歩のことをしっかり見てこなかったこと、そして、勝手に再婚したことを受け入れていると決めつけて嫌っていたことを後悔した。

　午前9時までDVDを観たあと、健人と歩は眠りについた。健人が昼過ぎに目を覚ますと、歩はどこかへ出かけたようで靴が置いて無かった。記憶の隅で、歩が「ジンが泊まりに来る」と言っていたのを思い出し、それなら夕飯の買い物に行かなければならないと健人は財布を持って外へと出た。
　久しぶりに出た外はムッとしていて、とても暑い。今日も連続真夏日を更新していて、暑くなると朝の天気予報で言っていたような気がする。手で日陰を作り、健人は空を見上げた。突き抜けるような青は眩しく、見ているだけだったらとても心地が良かった。
　近くのス�‘パ�‘へ行こうとしているだけなのに、額から汗が流れてくる。こんな日にも撸Г婴匦肖盲皮筏蓼�歩は体力があるなと、健人は少しだけ笑う。ここ最近、笑っている回数が多いような気がして、健人は自分の睿Г騺I手で挟んだ。
　ジンが泊まりに来ると言っていたが、夕飯を家で食べるとは限らない。そう言う情報を全く聞かなかったが、買っておいて損は無い。出来るだけ日持ちするようなものを選ぼうと、健人は買うものを頭の中をシミュレ�‘トする。一昨日は肉じゃがを作り、昨日はカレ�‘と中華を作った。歩はきれいさっぱり食べてくれたので、残り物は全く無かった。
　昨日の夕飯が中華だったので、今日は和食か洋食どちらかにする予定だ。それでも、昨日のように食べたいものをリクエストしてくれないと、作る側としては迷ってしまうのだった。
「……何にしよ」
　呟くように言って健人は足を止めた。遠くに居る後ろ姿はどこか見覚えがあるが、視力が弱くぼやけているので判別しずらい。あれはおそらく、歩だ。こんな家の近くで撸Г螭扦い毪趣纤激铯骸⒔∪摔献悚蜻Mめた。
　一緒に居るとしたらジンだろうか。そんな期待にも似た気持ちで近づくと、茶色い髪の毛が目に入る。ジンは�髪で茶髪には染めていないはずだ。夏休み中だから染めたのかと思ったが、その思考はすぐに消えてしまう。
　短いスカ�‘トにサンダルを履いている。紛れもなくあれは、女だ。女に話しかけている歩の横顔は楽しそうで、傍にある公園を指さしてその中へと入って行った。歩が女生徒から人気があるのは昔からのことで、それを見ていてもどうも思わなかった。人気者は大変だなぐらいにしか思わず、誰から話しかけられても笑顔で対応するなんて、自分には出来ないと思っていた。それなのに、今は少し摺�う感情が込み上がってきている。
　追うつもりなんて、更々無かったのだ。それなのに、足は自然とその公園へ向けて歩き出してしまっている。見てはいけないと誰かが言っているにも関わらず、健人の足は距離を縮めて行く。入り口で足が止まり、その中を見つめる。暑さのせいでがらんとしている公園は誰もいなくて、二人の姿ははっきりと見えた。その二人だけ、空間が切り取られているようにも見える。
　何を話しているのか、どんな表情をしているのか健人には分からない。それでもその二人に視線が釘づけになって、目が逸らせなかった。思い込みかもしれないが、楽しそうに喋っているようだ。女の身ぶり手ぶりが大きくて、鬱陶しい。それを見て、歩はどんな表情をしているのだろうか。いつもと同じように、誰でも受け入れるあの笑顔を向けているのだろうか。そう思ったら、胸の奥から焼けるような感情が爆発しそうになり、健人は服を握りしめた。
　苦しかった。
　見ていることはとても苦しいのに、目が逸らせない。見なければいけないと無理やりその状況を見せつけられているような錯覚に陥っていた。
　女の手が、歩の肩にかかる。その手を歩が掴んで、首を横に振っている。行動の意味や、何を話しているかなんて、頭の中から消え去っていた。二人の行動だけが、映画のワンシ�‘ンのように酷く鮮明だった。
　二人の距離が縮まる。重なろうとしたところで、健人は目を逸らした。これ以上、見ていられなかった。見てしまったら、後戻りはできなかっただろう。その場から逃げだすように走りだし、歩いてきた道を戻る。近づいた二人が何をしようとしているかなんて、恋愛経験の無い健人でも容易に想像できた。男女間にあるものなんて、あんなものだ。あんなものに対して、こんな苦しい感情を抱く自分の方が可笑しいのだ。込み上がってくる何かを必死に押さえ付けて、健人はがむしゃらに道を走った。
　息切れして、呼吸が出来なくなっても、足は止まらなかった。それ以上に、心が苦しかったからだ。走って苦しいのか、それとも、あの光景を見て苦しくなったのかは分からない。
　ただ、心と頭がとても傷ついていることだけは、良く分かっていた。
　家の中に入りリビングへ駆けこむと、まだク�‘ラ�‘で冷えた温度が残っていて、見る見るうちに体が冷めて行くのが分かる。それと同時に爆発しそうだった頭も冷やされて、冷静になっていく。アレは普通なのだ。歩に彼女がいようがいまいが、健人には関係の無いこと。そんな話を聞いたことも無いが、健人に言う必要だって無い。頭の中は冷静になったのに、心拍数だけはいつまで経っても元通りにはならない。
　どうして、元通りに戻らないのだろうか。そう考えても、めちゃくちゃになった頭の中でははっきりとした答えは見つからなかった。
　フロ�‘リングの床にへたり込むと、プルルルと家の電話が鳴った。無視してしまおうかと考え、少しでも別のことを考えたくなった健人は電話の前に立ち、受話器を手に取る。
「はい、佐偅�です」
『あ、もしもし、俺、石動だけど。健人君？』
　突き抜けるような大声に、健人は目を細める。名を名仱椁胜�ても声からして、誰だか一瞬に分かった。
「……そうだけど」
『今さ�‘、駅にいるんだけど。あのバカ、携帯に電話かけたのに電話出ないの。ふざけてるよなぁ。俺が泊まりに行くの、聞いてるよね？』
「うん……」
　歩が電話に出ない理由が分かっている健人は、それ以上何も言わずにジンからの言葉を待っていた。
『歩、家に居るよね？』
「……いや、居ないけど」
『うわぁ、アイツ、携帯持って行くの忘れただろ。最悪。もうさ、駅に着いちゃってるから、そっちに行っても大丈夫？　暑くて耐えらんないわ�‘』
　この家で一人になることを考えたら、誰でも良いから家に来てくれる方が嬉しいと健人は思った。ジンとはあまり喋ったことがないが、居るだけでも歩のことを考えなくて済む。健人は口の中に溜まった唾を飲み込んで「大丈夫」と答えた。
『今から行くから、20分ぐらいで着くと思う。じゃぁ、またあとで�‘』
　陽気な声が聞こえ、プツと通話の切られる音がして、健人は受話器を置いた。まだ、鼓動はいつもより早かった。
電話で予告した通り、ジンは20分ほどで家にやってきた。ピンポンが鳴ったので玄関を開けると、泊まりにくる荷物を抱えたジンが立っていた。
「……いらっしゃい」
　せめて気落ちしないように声を出してみたが、思った以上に暗い声が出てしまって健人は俯いた。歩はまだ帰ってきていないが、ジンは気にする様子も無く「久しぶりだな�‘」と元気よく健人に挨拶をすると、家の中に入ってきた。リビングに通すと、ジンはその場に立ち止まり「ふ�‘、涼し�‘」とク�‘ラ�‘の前で涼んでいた。
「何か飲む？　麦茶とアイスコ�‘ヒ�‘あるけど」
「あ、麦茶で！」
　話しかけてきた健人にジンは振り向いて笑顔を向ける。元気な笑顔を見ていると、確かに人当たりが良さそうな感じである。歩がジンとなら仲良くできると言った意味が大体分かった。棚からコップを出して、冷やしてある麦茶を注いですぐに持って行った。ソファ�‘の前にあるテ�‘ブルへ置くと「いただきま�‘す」とコップを掴み、一気飲みした。
「ふ�‘、ほんと、今日はすっごく暑いよな。生き返るわぁ」
「……今日は下手したら、猛暑日になるかもしれないって、天気予報で言ってた」
　呟くような小さい声で言うと、ジンは首を傾げて健人を見た。歩やジンとは摺�い、元々声は大きくないが、先ほどのことを未だに引き摺っているせいか、覇気が無い。そういうところを鋭く見抜けるジンは、健人を見つめて「何かあったの？」と直球で尋ねてきた。
「いや、夏バテ……、かもしれない」
　ウソを吐くのはあまり好きではないが、何かあった理由もジンには話せなかった。まだ、さほど仲良くないと言うのが第一の理由で、第二は歩に抱いている感情を誰かに教えられるのが嫌だった。
「夏バテねぇ……。確かに最近、あっついもんなぁ。夏バテには、カレ�‘が一番！　ってことで、今日はカレ�‘にしよう！　歩は料理できないから、俺が手伝うし。やらせっぱなしって、好きじゃないんだよなぁ」
「……え」
　昨日の昼にカレ�‘を食べたばかりなので、今日の夕飯でカレ�‘と言うのは避けたかった。それ以前に、やはり憶測通り家でご飯を食べる予定だったなら、買い物に行かなければいけない。すれば自然と、またあの公園を通り過ぎなければいけないことになる。あんな場所、二度と行きたくなかった。健人は一度、ジンに確認を取る。
「うちで食べるの？」
「……え、あ、歩から聞いてないの？　健人君の料理美味いから、食べてみろって言われたんだけど……。つ�‘か、アイツ、本当に肝心なところ話さないんだなぁ。本当に、サイテ�‘」
　ジンの言うとおり、歩は肝心なところを健人には一切話していなかった。まさか、影でそんなやり取りが行われているとは思わず、健人はため息を吐く。一瞬、沈黙が場を包み、健人はジンを見た。目が合うとジンがプッと噴出して笑い、なんだか健人まで楽しくなってしまい、小さく笑った。ジンと話していたら悩んでいたことが吹っ飛んでいってしまいそうだった。少しだけ笑うと肩の力が抜け、健人はソファ�‘に座った。
「健人君が笑ってるの、初めて見たかも」
「……え？」
「こう言うのも失礼かもしれないけどさ�‘、健人君って結構、同じ顔してるじゃん？　笑ったりとか滅多にしないし。けど、今の笑った顔見て、ちょっと安心した」
　昔からさほど感情豊かな人間ではなかったため、笑ったりしないのが当たり前になっていた。健人は眉間に人差し指を当てて、数回なぞる。高校に入ってから嫌なことが多すぎて、眉間に皺を寄せていることが多かった。友達も何も要らないと思っていたから、誰かと交流も深めていなかった。ジンがそんな風に見ていてくれていたとは知らず、仄かに嬉しくなる。
「言われてみたら、人前で笑うの、久しぶりかも」
「へぇ、じゃぁ、歩の前でも笑ったりとかしないんだ？」
「……多分、あいつの前で笑ったことって無いと思う」
　記憶を手繰り寄せて、健人は呟いた。歩の前はおろか、この家に来て心から笑ったことなんて一度も無い。母の前で笑顔を見せることはあっても、それは本心からではなく、心配させまいと無理をした笑顔だった。無理して笑うたび、自分の中から何かが落ちていく。それは、感情だったのだろうか。
　俯いている健人を見て、ジンは健人の隣に座る。皮で出来たソファ�‘はスプリングが効いていて、落ちるように座るとぎしぎしと揺れた。
「アイツ、時たま、すげ�‘ウザイよな」
　ジンは天井を見上げて、独り言のように言う。
「なんっつ�‘のかなぁ。表面上はみんなと仲良くしてるように見えるんだけど、一線引いちゃってるんだよなぁ。それがさ、仲良くしてあげてますよ�‘って感じでウザかったわけ。そんでまぁ、俺と歩は1回大喧嘩してるんだけど」
「……へぇ」
　健人はジンに目を向けながら、確かにそうだなと学校にいる歩を思い出した。人見知りもしないし、顔が良いから人も集まってくる。話し掛けてくる相手には笑顔で対応し、一人でいる人には自分から話しかけに行ったりもしていた。全て、同じあの振りまいてるような笑顔で。この前まで、健人はあの笑顔こそが、本当の笑顔だと思い込んでいた。しかし、停電の日に見せた笑顔を見てから、その考えは一変した。
「アイツさ、不器用なんだよね。器用そうに見えるけど。全然、器用じゃね�‘の。笑っちゃうぐらい。だからさ、あんまり健